南極点のピアピア動画(野尻抱介)

読みながら岡田斗司夫の「なんでコンテンツにカネを払うのさ?デジタル時代のぼくらの著作権入門」を思い出した。副業なしに作品だけで食っていけるクリエイターは日本に1000人。創造は商売にしちゃいけないし、しなくても発表と評価の機会はある。アマはアマのままクリエイティヴィティを満足させる基盤が整いつつある、という旨の話が記憶に残っている。
で、「南極点のピアピア動画」。日本のネット文化のある領域、具体的にはニコニコ動画初音ミクがコンビニ業界のネットワーク(情報ネットと物流の両方)に絡み合って、技術者の創造性を次々に実現してゆく。低軌道有人宇宙飛行から有機物による宇宙ステーションと軌道エレベータ、最後には地球外知性とのファーストコンタクトまで。描かれるのは工学系大学生や研究者など、営利を目的とせず面白いことを実現したい欲求のままに行動する若者たち。
楽観的すぎるストーリーではある。現実にはニコ動も初音ミクも広く日本社会に認知されているとは言えないし、作中の物流会社を初めとする日本企業がそんなにフットワーク軽い訳ないだろ、とか。しかし、音楽や映像の世界においてYouTubeやニコ動がブレイクの足掛かりになっている、その現実を先取りした物語でもある。ネットから現実へ何かが溢れ出てくる感覚は既に身近なものとなっている。読後にそのことを気付かされた。