デッドクルージング(深町秋生)

荒っぽい暴力や破綻した人格などディテールは著者の他の作品と共通しているが、それらの細かい描写よりスピーディなストーリー展開を優先している感がある。何人かの登場人物の視点で物語は進行するが、軸となるのは私兵Aと、Aの襲撃の巻き添えで妹を殺された脱北女性の行動。
速い展開も楽しめたが、より魅力的なのは舞台設定。経済破綻、難民流入などで治安が悪化し、暴力装置を持つ組織が経済を支配する近未来の日本。打海文三の「ハルビンカフェ」に似た背景だが、あれほどの濃度はないためストーリーに身を任せられる。反面、その舞台を活かしきれていないいないというか、登場人物たちの無軌道さの根拠が希薄に思えて、もったいない。
同じ舞台でもう少しだけ濃密な物語を読んでみたい気がする。