The Indifferent Engine(伊藤計劃)

冒頭のコミックと短編が007へのオマージュ。007は一人ではなく、同じ人格を刷り込まれた孤児が繰り返し任務に就くという話。
人格の刷り込みというアイデアを初めて読んだのは牧野修「MOUSE」だが、その奇怪なイメージや邪悪さに言いようの無い気味悪さを感じた。本書でもそれは表現されており、短編では人格刷り込みが人の精神に及ぼす影響がストーリーの重要な鍵となっている。
伊藤の作品の殆どは戦争をモチーフにしている。描写自体は比較的淡々としており、主人公である兵士個人の内面、戦闘に参加する意味といったことが一人称で語られる。兵士とは所属している軍の命令に服従し戦う意味など考えない存在だが、伊藤作品の主人公はそうではない。軍、国家といった巨大な意志への疑問や反発を抱えながらそれでも戦い続ける伊藤の物語は、難病と闘いながらその闘いにどんな意味があるのか問い続けた著者自身の心象の吐露ではないだろうか。