ヒステリック・サバイバー(深町秋生)

アメリカの若年層の文化的構造にジョックとナードの対立がある。日本の中高生社会にそのまま適用するのは難しいが、体育会系と帰宅部が互いを蔑んでいがみ合っている構図が近いだろうか。
双方が排他的であるため、登場人物の中学生はどちらか一方の集団に属していて、同時に両方の構成員であることはない。しかし、ジョックとナードの両方の属性を持っていることを自覚している主人公は中立的立場を貫き、両方の集団から暴力を受ける。その暴力を受け止め、場合によっては自らも暴力を行使することで、深刻な両者の対立を解決しようと試みる。
属性で二元論的に人間を分類する愚行、分類を規範として行動することが差別構造を下支えする仕組み、多様性を許容しない社会への批判が感じられる。
同じ著者の「果てしなき渇き」での暴力描写が暴力そのものを目的としているように読めるのに対し、本書では暴力の先に問題解決の希望が見えるところが決定的に違う。陰惨なシーンも多いが読後感は爽やかだった。