怖い絵(中野京子)

描かれた絵自体が怖かったり、画家の逸話や時代背景によって美しい絵の背後に怖さが潜んでいたりする。前者は例えばゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」。このギリシャ神話をモチーフにした他の絵画と比較しながらの解説によってゴヤの絵の怖さがより引き立つ。後者はドガ「エトワール、または舞台の踊り子」。バレエ界の成り立ちや当時のバレリーナの社会的役割が解り易く解説され、それを読んでから改めて絵を見ると印象が全く変わる。
優れた絵画には余計な解説は要らないとする意見もあるが、この本を読むと絵画のバックグラウンドを知らずに鑑賞することの無意味さに気づかされる。綺麗な絵を見て「綺麗」と感じるだけでは片手落ち、前菜だけで食事を終えるようなものだろう。