覇者と覇者 歓喜、慙愧、紙吹雪(打海文三)

孤児部隊三部作の第三部。
上巻にあたる部分6章、カイトの章と、下巻にあたる部分の3章まで書かれたところで、この物語は終わっている。著者が亡くなったからだ。
生前の著者のブログにも記述があるが、第三部は国内難民問題が重要なテーマの一つ。武装勢力によって難民問題への対処は異なり、奥州軍は難民を軍事境界線外へ強制退去させ、常陸軍は受け入れる。常陸軍の行為は著者の理想主義的傾向の表れなのかもしれないが、一癖も二癖もある著者とこの物語の登場人物だけに、ただのお人よし、人道主義で難民受け入れをするわけではない。難民救済の国際NGOからの援助活動を請け負うことで利益を上げ、難民の中から兵士や娼婦などの人材を育て、支配地域の安定化のために自治を任せ始める。
物語は、海外のファンドからの戦費流入、北海道軍の参戦、アメリカ軍の間接的介入などで大規模な戦闘となり、国民和解政府が成立。東日本の内戦が一旦終結した。しかし、北海道軍による首都圏の治安維持が失敗し、「我らの祖国」残党によるテロ多発で再び混乱の様相となる。
カイトは一貫して国民和解政府の政府軍への参画を拒否し常陸に戻って大工になるだの何だのと言っているが、この先戦争から降りることはできるのか?北海道軍は首都圏撤退か?「我らの祖国」に代わる武装勢力の台頭はあるのか?そして椿子は生き延びられるのか?
物語の残りの部分が書かれぬまま終わってしまったので、この先は妄想するしかないが、「覇者と覇者」というタイトル、三部作の最後、カイトの妹弟が帰国し終戦へ向けた活動をしていること、色々と考えるに諸問題に其々何らかの決着が見られる結末なのではないか。

  • 関東甲信越は、常陸軍・宇都宮軍・国際旅団の併合により国家として独立。
  • 首都圏の利権はプラウダ、パンプキンガールズ、高麗幇、鉄兜団により山分け。
  • 北海道、奥州、東海も独立。それぞれ軍事的に均衡した関係。
  • 西日本は未だ内戦続く。
  • カイトは政府軍司令官として独立に貢献。その後常陸に戻り里里菜と結婚。
  • 椿子は国家独立の際の戦闘で死亡。
  • メグは政府官僚。リュウは死体屋と結婚。葉郎はロレッタ・ラウと結婚。万里はファンのおじちゃんと結婚。アイコは三千花とイギリスへ渡る。
  • イリイチ准将は戦犯として処刑。
  • ラストシーンは常陸の海を臨むカイトの家。小燕と佇むカイト。小燕がカイトの母であることを伺わせるシーンで終わる。

再読したらまた違う結末を妄想しそうだ。