鱗姫(嶽本野ばら)

映画「下妻物語」を見た後、原作者に興味を覚えたので読んでみた。
どうも自分にはファッションセンスがないせいか、美意識が他の何者にも優先する思考・志向・指向がピンとこなかった。実感はできないが、病で身体が醜く変形してゆく主人公の少女が、病気の進行を止めるためには殺人も厭わず犯した罪の大きさにも動じない様子は楽しく読めた。そもそも鱗病に冒された少女がその病により美を失う恐怖が物語の核のはずだが(裏表紙でそのように紹介されている)、発病にとまどいはするものの衝撃を受けたり絶望してるようには見えない。むしろ同じ病を持つ叔母と治療のため隠された病院に通ったり、怪しげな治療法を試したり、何だか楽しんでいるようにも思えておかしかった。しまいには殺人を犯しその始末をしているうちに実兄への秘めた思いを開放してしまったりして。
ファッションの感覚の鋭さは自意識の強さと密接な関係があると思っているが、この小説でも自意識=美意識の強さゆえに主人公は自分の身体に起きた災厄でさえ超越してしまう。強い自意識は気に入らない他者を意識から排除するため殺してしまっても全然平気。同じ価値観を共有する人(実兄、叔母)だけしか目に入らない。物語の描かれ方も同様で、登場人物は極端に少なく、しかも深く描写されない。ちょっと古い表現だと「セカイ系」って感じ?