ぼっけえ、きょうてえ(岩井志麻子)

明治から終戦直後までの岡山を舞台とした短編集。
本書で描かれている恐怖は書評や解説で盛んに煽りたてられているが、さほど恐怖は感じなかった。むしろ、登場する女郎、祈祷師、酌婦、孤児など、社会の底辺の人々の生活や思いに感慨を覚えた。教育水準が上がり社会保障も整備された現代日本では、絶望するほどの貧困や人身売買は表面上目立たない。しかし、ほんの百年ほど前は、どんな家庭で育ったのか、今どうやって食っているのか、これからどのように生きていくのか、全く不確かな生き方が当たり前だったのだろう。ストーリー中の土着的な怨念や怪奇現象などより、舞台となった時代そのものに空恐ろしさを覚えた。
で、岡山が舞台と言えば横溝正史八つ墓村とか。この手のホラーやミステリの舞台に適した土地なんでしょうか。一度訪れてみたいものです。