ゲノムハザード(司城志朗)

前半、主人公の記憶の混乱の理由がなかなか明らかにならない展開に少し間延びした印象。全てのきっかけ(本作中の表現に倣うなら素因)となる事件を起こした研究所長や、前妻を殺した妻など、やや描写が薄い人物もいる。
しかし、他人の記憶が徐々に欠落し始め、元の記憶もすべて消え去る危険性が高まってから、親しい人々に別れを告げる終盤にはグッとくるものがあった。
矢作俊彦との共作とは作風がかなり違う。矢作が説明を極限まで省き雰囲気でストーリーを推し進めるのに対し、司城は丁寧に状況を説明する。医療技術や化学の知識も、執筆当時なりに豊富。伏線も巧みに張られている。緻密でよく練られたミステリ。