果てしなき渇き(深町秋生)

書評でも賛否両論あったが、読んでみてなるほど納得。
二つのプロットのうち、ヤメデカ(という言葉は本書で知った)藤島のパートは、ストーリー進行の原動力となっている藤島のイカれ具合に感情移入できない。破滅に向かう緊張感は高まるが、なぜ暴力をエスカレートさせていくのかその動機が理解できない。
一方、藤島の娘によってその同級生が酷い目に遭うパートは、その救いの無さにも係らず妙な感慨が感じられた。自分の生きる世界が劇的に拡大する中学生という時期の希望と絶望を連想させる。矢作俊彦がよく書く「二十を過ぎた男なら、誰だって戦争へ行ったことくらいあるもんさ」という言葉を思い出した。言っているのは個人的な「戦争」で、新しい人間関係に歓喜し、その裏に潜む残酷さに打ちのめされ、多くのガキはそこから立ち直ることで成長する。本書の中学生は「戦争」から還ってこられなかったけど。
暴力描写がグロいって書評が多いけど、それほどとは感じなかった。ただ、物語の中での必然性が感じられない気はする。で、藤島が暴力をエスカレートさせる様子の不自然さに繋がっている。
本書はアレだったが、未読の「ヒステリック・サバイバー」には期待。こちらはジョックとナードというアメリカ若年層の勝者・敗者構図を、日本の高校を舞台に料理してるみたいで、楽しみ。